「国家主権」という思想(1) 篠田英朗著

★寸評★
 ・ウェストファリア条約は専門家の間で、多数議論されている(当著書注釈)。
  伊藤貫さんがロシア擁護にウェストファリア条約を使っているが、彼がそれらの専門家
  ほど深く理解しているとは思えない。チャンネル桜は最近見ないが、時々まだ
  発言しているようだ。現在のウクライナ情勢をどのように評価しているのだろうか?

  • 学生の頃、このような専門書は、支配層のウソを隠蔽するものだ、と見なし
    読まなかった。しかし、当の専門家がそのことを自覚し、戒めているのだね。
    遠い古のことなので、当時私がそれを自覚していたか不明だが、いかにも
    アオ臭かったんだね。専門家を盲信はいけないが、侮ってはいけないんだね。
  • 国家主権は血みどろの長い歴史があってこそ、確立されてきた。

★★★はじめに★★★

  • ・「国家主権」をめぐる人々の思想の歴史
    ・本書は「国家主権」「立憲主義」「国際社会」についての書
    ・国家主権は、立憲主義の中心
    ・社会の仕組について原理的に考える→国際立憲主義
    ・「国際社会」→国境を越えて共通の価値や制度を共有する人々の集団
     キリスト教的価値観 その後 より世俗的諸原則 諸価値
    ・国家主権と立憲主義との相関関係
    ・「国際的な立憲主義」によってかたちづくられた国家主権の原則
    ・国家主権→立憲主義を超越するか?
    ・立憲主義→国家主権を制限するか?
    ・立憲主義の体系の中に存在→国家主権構想(近代の中に強い伝統を保っている)
    ・20世紀後半→国際社会の広がりが普遍性を帯びる
    ・国家主義の原則 立憲主義運動の変遷・発展
    ・「国際的な立憲主義」によってかたちづくられた国家主権の原則
    ・第1章:17世紀~18世紀 イギリス アメリカ 立憲主義的主権概念
    ・第2章:19世紀ナショナリズムの高揚 イギリス アメリカの主権概念の国民化
    ・第3章:国際連盟設立時の議論 国際立憲主義の台頭
    ・第4章:両大戦間における国際立憲主義の興亡
    ・第5章:冷戦勃発 脱植民地 主権概念の普遍化
    ・第6章:冷戦後期の主権概念 新しい国際立憲主義の主権概念
    ・第7章:冷戦終焉後→自由主義的価値規範の広がり
    ・終章:現代の主権論
    ・国家主義と立憲主義の関係を理解することが決定的に重要

★★★序章 国際社会が描き出す問題★★★

■近代の産物としての国家主権→17世紀に始まり18世紀後半に確立

  • 近代国家の秩序構成原理
    ・「近代」→18世紀ヨーロッパに始まった政治的・経済的・思想的面を保つ
     総合的社会運動→市民革命課程で生まれた主権国家、産業革命で生まれた資本主義
    ・①主権国家→国家主権の原則をもつ社会のなかでのみ存在可能
     ②「諸主権国家の社会としての国際社会」→歴史的 地理的制約を超えない
      →共通の制度と価値観
     ③国家主権という概念を共有する国内社会の構成原理:国際社会の構成原理
      →連続性有り
    ・近代ではじめて国家は完結した一つの集合体(それまでは、支配者と被支配者がいるだけ)
     →誰が主権者で誰が統治するか(近代)→特定の原理で統一秩序→主権者とは国家自体
    ・国際社会→特定の構成原理に基づく秩序形成された社会
     共通の利益 共通の価値 共通の制度 共通の規則 →共有→国際社会
     (イギリス国際政治学者ブル)
    ・国家主権の原則→国際秩序の合法性の中核を占める共通の制度
  • 「ウェストファリア体制」の神話
    →主権国家が乱立して無秩序が恒常化→1648年ウェストファリア講和条約
    絶対的排他的な領域的独立性を持つ主権国家の「体制」は当時も今日も存在しない
    ・振興学問分野である国際関係学分析→ウェストファリアの神話が好都合だった。
     歴史的変化への無関心 非西欧社会、非国家主体、非近代的社会などへの無関心
  • ウェストファリアの講話の歴史的な意味
    ・17世紀に生まれた→絶対的な主権国家それ自体ではなく、それらを
              意味する秩序構想の枠組み
    ・国際法学者たちがウェストファリア講話に注目→国際社会の歴史的存在を裏付けた
                          →国際法の歴史的意義を証明
    ・国際法が法体系として存在することを否定(19世紀にあっても):イギリス
     諸国民の法(Low of Nations)
    ・アメリカ独立 ヴァテルを信望 自治権を唱える
    ・19C後半:国際法学の独立的体系整う→ヨーロッパ国際社会が文明の社会として
          ヨーロッパを超えてゆく「理論武装」として必要
    ・崩壊した社会→規範体系を再構築:ウェストファリアの講話 決定的な歴史的重要性
     →WⅡの国連憲章と比較すべし
    ・現世界を支える権威→現世界を超えるものでなければならない
    ・中世的秩序の終焉→自立的空間のなかで秩序を形成する権威を模索
     →社会契約
    ・ウェストファリア講話:17世紀に典型的な合理主義を兼ね備えていた
     当事者間の合意による秩序創造→中性的世界観からの隔絶
    ・主権国家はいつ生まれたか→近代という特有の政治状況下:
                  政治的価値規範の闘争の歴史の中
    近代→どのような主権国家と国際社界の構成原理を発展させてきたかを解明する

■2 本書の方法論と前近代の主権概念

  • 主権概念の分析の方法論
    ①国家主権 定義せず 国家主権をめぐる価値規範の葛藤
     主権について論じていること
    ②国家に関する主権だけを扱う 法人格としての主権を扱う
    ③イギリス アメリカの主権国家概念の発展に焦点
  • ヨーロッパの歴史と主権論
    ・中世→sovereignty state 概念なし→16世紀 フランス イギリス イタリアで導入
    ・16世紀以前→アリストテレス キケロ ローマ帝國に主権概念があった
    ・中世においても、キリストの主権の人格的表現
    ・近代ヨーロッパ 国家主権 国際社界の構成原理として認識された
    ・2つの不連続①古典主義時代の端緒(17世紀中)→その前16世紀ルネサンス
           ②近代の端緒(19世紀初)
      17世紀 古典主義時代 ホッブスの主権論
  • 16世紀の主権論
    ・ルネッサンスの知→世界は「類似関係」に満たされた記号の網目
             創造主によって印づけられた世界統一性への確信
    ・世界の統一性→無限の「類似関係」によって保たれる
     ボダンの主権論→「類似関係」 神の存在の絶対性
     類似関係に依拠した権威 「共和国の絶対的で永久的な権力」→主権
    ・神法 自然法→王を含めたあらゆる地上権は従う
    ・「神がわれわれに対する権力を与えた彼の勅令・法令に従わなければならないのは
      神と自然の法」だから→神の代理人
  • 17世紀の主権論
    ・ホッブス→1651年 ・リヴァイヤサン
     権威づける
    我々の平和と防衛についてこの可死の神おかげを被っている→主権者権力
    自己完結的空間 諸個人の自然権
    社会構成員の「信約」が其の絶対性を保証する。 
    ・自然状態論 1642年→イギリス内戦が反映したもの。
    ・自己充足的ヨーロッパ社会秩序の原型→ウェストファリア条約
     →「あらゆる君主のあらゆる君主との契約」
     →自己充足的なヨーロッパ地域社会「秩序」の原型
    ・立憲主義の源流→古典主義時代にある
    ・近代→世界大に広がる 「国家主権」原理 「立憲主義」「国民主権」
        等の思想運動

■3 近代の国家主権論

  • 近代的国家主権の登場
    ・近代→18C後半 市民革命 産業革命 
    ・特徴→「人間としての人間についての認識論的意識」
         自己存在の本質を問い続けた
    ・近代的「人間」の歴史的同一性を確保する論理の一つとして、国家主権の思想は発展した
    ・ルソー→1762年「社会契約論」 近代性の萌芽
    ・「主権→一般意志の行使→譲り渡せない」
    ・「主権者→集合的存在→集合的存在に他ならないから、集合的存在そのものにしか
     代表されない。権力は譲り渡せるが、意志はそうは出来ない。」
    ・「一般意志」→国家の根本原理→国家意思の実現→
     「全ての人々の結合によって形成される公的人格」の意志の実現
    ・19世紀ドイツ哲学者 法学者→社会契約論を否定
     個人の自由→国家において見いだされる(ヘーゲル :ルソーの国家意思を認める)
    ・個人の最高の義務→国家の構成員になること・自由はその最高の権利に到達する

    ・主権国家全体の意思や制度こそが、国家の基盤となる。
    ・「心的態度としての勇気の真価は、真の絶対的究極目的の中に、即ち国家主権の中に存する」
    ・18C末以降→国家の人格は自明(フランス革命以降)→国際社会を構成する主体
    ・主権国家全体の意思や制度こそが国家主権の基盤
    ・意思主義的側面を強く保って有機的国家論を展開する思潮→ナショナリズム
    ・国民主義→立憲主義→矛盾しないが、異なる国家概念
  • 国民主義と国家主権
    ・近代以前→統一的秩序空間の樹立は困難→宗教的権威 世俗的権威 複数の封建的紐帯の錯綜
    ・近代→「国民」観念 18世紀末以降 ヨーロッパに台頭
    ・国民=民族 の同一性 フランス革命
    ・20Cに全世界に拡大
    ・国民主義運動→近代国家の普遍的拡大→国民だけが崇高な権力が宿る
  • 立憲主義と国家主権
    ・君主主権、国民主権=「人の支配」のイデオロギー
    ・立憲主義的立場→「法の支配」
    ・イギリス革命 アメリカ独立革命 合衆国憲法制定→主権は不明確
    ・主権者の権力の制限 主権者の支配からの脱却
    ・本格的な国民主権の時代が到来する前に市民革命を成し遂げた古典的な自由権を標榜
    ・立憲主義的価値観に基づく主権概念の理解が広く認められた。
    ・古典的な自由権を標榜するイギリス・アメリカにおいては、立憲主義的価値観に基づく
     主権概念の理解が広く認められた。
    ・法の上位に位置する憲法規範の存在
    ・社界契約が政府を拘束する根本規範→侵害されたとき革命:古典的立憲主義
    ・立憲主義の立場から問題になる→国際社会の憲法諸規範がどのように尊重されているか
    ・「西洋的価値観」が「立憲的政府」の思想の中心になっている(マーチン・ホワイト)
    ・「法の支配」→巧妙に隠されたある特定の支配勢力のイデオロギー(マルクス)
    ・欧米の利益→「自由権」規範を強調
    ・立憲主義→価値をめぐる政治闘争の主要な一要素
    ・国民主義という異質な思想運動と対比
    ・21C→国家主権と国際社会のあり方を把握する鍵

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